復興ピアノでコンサート

　　怖い怖い地震と津波にあいました。泥や塩水をかぶって～。
ぼくは皆の悲しみと一緒に海に沈んでしまいました。
ドもレもミもファもソもラもシも出ない。辛くて苦しい日が続きました。
な～んにもなくなった町から毎日ため息をつきながら海を眺めているおじいさんがいました。水が引いて、少し頭が出たぼくは「井上さん、ここだよ。ぼくはここにいるよ！みつけてよ！」と心の中で叫びました。
　そのおじいさんは石巻でぼくが住んでいた井上楽器店を経営していました。ぼくはおじいさんに助けてもらったんです。おじいさんはぼくの木の部分を乾かし、お湯で湿らせたタオルで包んで塩分を取り除いてくれました。それを何度も繰り返してぼくはきれいになりました。さびた弦は交換し、金属のネジや留め金も全部1個ずつ磨いてくれました。おじいさんの熱い思いに心をうたれて、たくさんの人がお手伝いをしてくれて、おかげでぼくはまた音がだせるようになりました。

　滋賀県に住む音楽の大好きなおばさんがぼくのことを知ってずーっと心配してくれていました。「がれきにしないでなんとか助けてください」と何度もみんなにお願いしてくれて、ぼくがなおったらおばさんのところにもらわれていくことに決まりました。いつごろ滋賀県に行けるのかな～って楽しみにしていたら、今度は台風15号がやってきました。おじいさんは一晩中はらはらしながら見守ってくれたけど、こわれた井上楽器店の1階にいたぼくの足はベチョベチョに濡れてしまいました。おじいさんは寒くなるまでに運んであげようと一生懸命ぼくを乾かしたり、修理をしてくれました。

　そして10月9日、ぼくは石巻からはるばる彦根のおばさんのところへやっと来ることができました。

　そうです。ぼくは再生不可能といわれた、奇跡の復興ピアノなんです！

　あたたかい希望の音がだせるといいな…